a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

Frantic (1988) - フランスとアメリカの情緒を織り交ぜた。秀作。

Roman Polanski監督。

パリという異国でアメリカ人が不慣れで不格好な様は、Midnight in Paris(2012)でもみられる。汎用的に使われるモチーフである。これはまめ知識である。

人物を手前と奥に配置してそれぞれ別の事をさせるという、奥行きを理解した撮影法が確認できる。それでいて、全体的に写実的である。熱情にまかせたり、ストーリーテラーに便宜上動かされているような不可解な行動をする人間がいない。横光利一のいうところの感傷性、つまり「一般だとうと認められる理智の批判に耐え得られぬもの」ではなく、あくまでも「偶然性」のみで話をすすめようという気概が含まれている。

上の最たる例が、Michelleが登場するシーンで、てっきり彼女が殺人者に背後からつけられたのかと思われたシーンで、Michelleの顔を映していない。これが普通のハリウッド映画であれば、かならず彼女が驚いたという意味で絶叫のシーンをMichelleのdetail shotで撮ろうとしてくる。それがこの映画では採用せず、彼女の顔は後ろが見えるのみ、あくまでも犯人に間違えられた主人公であるDr. Richard Walkerの表情を映している。これが、単なるストーリーの脚色だけで映画を撮っていないという、監督の力量を証明するものである。

そもそも、この映画は異国フランスでRichard Walkerが失踪した妻を探すなかで、孤独で、だんだんと事件に巻き込まれて行く主人公の様子がおもしろい。その中で、Walkerのみにしっかりと視点を定めて撮っているところに、この映画のすごみがある。主人公はアメリカ人だが、事件の鍵が自由の女神にあるところが、皮肉めいていてまったくすばらしい。

撮り方でもう一つ特筆するとしたら、カメラをスイングさせることで、ある人物の全身を映すことからその人物の視線を映すように性質を変えるショットを得意とする点である。

Michelleはアバンギャルド貧困層の娘で、いちぴちと元気がよい。それで、空港のシーンではチューインガムでも食ってろ、という感じなキャラクターになっている。バーで曲リベルタンゴの編曲にあわせて踊る彼女も、なかなかに色っぽくて見物である。

ちなみに、Michelleを演じたEmmanuelle Seignerは本作の翌年に、監督と結婚した。そんなゴシップを聞かされてだから何だと言われたら困るが。