a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

ルパン三世 カリオストロの城(1979)- こんなエンターテイメント他にない。

宮崎駿監督。

アニメという手法が他のあらゆる映画と一線を画す優れた技法は、跳躍の描写である。本作はあまりにも有名なので作中の例を挙げてしまうと、塔から塔への跳躍などである。

ただし、本作の跳躍はいわば「王の跳躍」である。どの他のアニメよりも跳躍が優れている。本来、難攻不落の塔へと進入するという行為は、非常に困難なものである。なにせ移動橋がなければならない、100メートル以上ははなれているだろうと思われる孤塔である。しかし、本作はその困難さをかの跳躍、それもたった10秒程度の助走と跳躍のシーンで、無かったことにしてしまう。どんなに困難なストーリーも、その監督のさじ加減ひとつで無かったことに出来るという意味で、私は「王の跳躍」と勝手に呼んでいる。

他にも、この映画は様々な点において群を抜いている。そしてまた、アニメのために作られた映画ではなく、映画のためにつくられたアニメである。クラリスの花嫁衣装が風になびいてひらめく様子は、アメリカのジョン・フォードが好んで用いた女の純白のエプロンを、私に思いださせた。また、本作は有名だから物語の結末を言ってしまうが、最後にクラリスのことを突き放すルパンは、世界大戦後のハードボイルドの男優とどこか懐かしいところがあった。本作は、かぎりなく映画とおなじ土俵に立っても引けをとらない教養と、構成を備えている。

私が個人的に特に好きな場面は、水道で滝に落ちてしまうシーン、伯爵が死んでしまう(たぶん死んだと思われる描写の)シーンである。水道のシーンについては、全体を通して音楽をよく貼っている作風のなかで、意図的に音楽を排して無音とする描写がすばらしかった。水のなかで感じる恐怖を観客に体感させるために、何を付加してはいけないかを知っている。付加してはいけないものは他愛のない音楽である。それを確実に見極めている慧眼がある宮崎駿は、本作が地球上に存在しつづけている限り、尊敬に値している。