小津安二郎監督。
本作がとても素晴らしいという所以は、お茶漬けの味という味覚に、物語のすべてが集結するように出来ているところである。お茶漬けの味というのは、中年夫婦の精神的な不仲の象徴であるが、その実体は妻の精神的な防衛線でもあり、夫という敷居の高さでもあり、またコイに与えるエサのようなものである。このストーリーとは、我侭が阻害している夫婦の仲睦まじい精神的一致というものが、その我侭を些細なこととしてミニマイズし、最終的にはとるに足りぬお茶漬けの味の好き嫌いを克服するという単純化に置き換えた点である。
当然のことながら、本作のストーリーは、お茶漬けが嫌いな妻が、そのお茶漬けの味や様式を克服することであるとは言えない。ストーリーの事の本質は、夫婦が精神的に仲睦まじくなることであるが、その大層なストーリーが、たった一杯のお茶漬けを許容するだけですべてすっきり胸のうちが晴れて解決したかのようになっている。私は、そんな単純化が嫌いだと論じるのではなく、その単純化ができているという本作の事実に感動した次第である。