a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

About Time (2013) - 自慰的なストーリー。

Richard Curtis監督。

Rachel McAdamsの演ずる女のボーイフレンドは、『ミッドナイト・イン・パリ』のように本人に内緒で勝手にタイムトラベルをする。本人は、彼がタイムトラベルをしていることを信じていないか、もしくは本作のように知らされていない。

私がひとつ意外に考えたことは、主人公のDomhnall Gleesonが、彼女にタイムトラベルのことを告白しなかった点である。ストーリーは、タイムトラベルの能力を用いて幸せな人生を送ることであるが、特に可能性が減弱するようなシークエンスがなかった。なぜなら、失敗したらタイムトラベルをしてやり直せば済むから。そこで、もし作品をドラマチックにするのであれば、その能力が故に可能性が減るような状況を偶然発生させればよく、それは彼が調子にのって彼女にその能力を打ち明けることで出来ると考えていた。更に、そこで彼女が「私にだまってそんなことをして、幸せなの?」と怒るか呆れてさえしててくれさえすれば、主人公は映画の前半に自身がしたことについての反省や悔恨によって悩み、そこで初めてストーリーに波ができる。

しかし、本作にはそのような事はなく、ただ主人公はやり直しのためのタイムトラベルという形で、消去法的に可能性量を上昇させていく。結婚して子供ができたあたりで、「毎日がたのしくかけがえの無いものになったから、タイムトラベルはやめたのだ」と満足げに語って終幕となる。なんとも、彼のその可能性の成長に他人は一切関与しておらず、彼ひとりが自分ひとりで可能性をすこしずる上げ、そのまま終わった。映画世界内における主人公はそうとうに孤独であろうが、ストーリーとしては自慰的であるだろう。他者による感情や主義への浸食、挑発という行為は、タイムトラベルというSFによって封じられたのだ。