a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

Bragil (1985) - この世界観はなかなかのもの。

Terence Gilliam監督。

これ以上のSFは無いと思われる。Science fictionとしてではなく、望ましい未来について語る未来学としてのfictionである。なぜなら、本作に登場している全ての機器や官僚体制は、実際にわれわれが生きている世界で実現しようと思えば実現できるものであり、特別な科学発明を必要としない。もしかしたら、このような世界が将来起こりうるかもしれない。

だからこそ、本作を観ていて「こんな世界は嫌だ」と思えればこの映画はその存在価値が大いにある。もちろん、「こんな世界でも良いじゃないか」と思ったとしても結構で、やはり映画の価値がある。未来のことを語れる映画というのは、貴重である。

世界中の神秘を語るようなSFは、Kubrickの『2001 : A space Odyssey』でも、Tarkovskyの『Solaris』など色々と秀作がある。ただ、これらが望ましい未来について語っているかという観点においては、やはり語ってはいないと思われる。むしろ人間の未来については沈黙をしている。それはそのはずで、未来を見据える目的においてではなく、人間の自らの姿を投影するためにこれらのSFがある。自らの姿を水面に映すのは当たり前の事、さらに未来のあるべき姿を示すような元気な映画が、本作である。

音楽がまた良い。主人公や観客は多少なりともアナーキズムに酔っていくので、どのような旋律がその酔いに花を咲かせるかが重要であった。それがまた、のん気な雰囲気である。口笛など吹かす余裕を見せている。本当は心の余裕など無い世界にも関わらず、このような音楽を流すからこそ、映像と音楽の融合が成功する。悲劇にはボサノバ調の音楽を重ねるようにと、一概に言う訳ではないが、相反するように思える要素を重ねることの利益を映画には追求して欲しい。本作の音楽はそれが出来ている。