Stanley Kubrick監督。
Kubrickの中で一番きれいな画面である。観てすぐに原作小説を注文したので、届くまで正確な評価はしがたいが、どうもかなり原作に忠実であるらしい。ということは、今まである映画の中で最も難解な部類のストーリーであるのは小説に帰する問題で、映画としては極めてシンプルな動機を持っているとも言えよう。なぜ無くしたはずの仮面がまくらに置いてあったのだろうか。解釈が付かぬ。ここだけ映画的に失敗しているような気もする。
Kubrickの後期作品は敵が外的なものから内的なものへ移った。その推移が映画の発展を物語っているようでよい。人物が戦っているのは自分の中にある在る感情であって、その感情を起こした人間や事件を打倒して単純に終了するわけではない。『フルメタル・ジャケット』のレナードは最終的には自分を打たなければならなかったし、本作では肉体的な意味での浮気の像が最大の敵であった。私は、ビルとアリスは精神的な意味で浮気をしたことは一度たりともなかったと思っている。その点を確実に実写できているのが良かった。であるから、お互いに愛しているのだけれども、どうしても他者に肉欲が発生してしまうのをどうしようと悩んだ末に、ラストでアリスが言った台詞が達観していた、という映画である。大枚をはたいて街を徘徊した男の方は、達観も何もただ痛い思いをしただけで、どうにも始末に終えなかったということである。