Aki Kaurismaki監督。
Shostakovichの『交響曲5番』が何度も使用されている。まさかShostakovichを、ここまで違和感無く映像に組み込むことができるとは思っていなかったので、正直に観ていて嬉しくなった。本作で焦点が合わせられているものは、絶望とまではいかない貧困や苦境から、抜け出せないで居る或る男である。主人公があからさまな絶望的な状態やピンチに陥るのは、映画のシナリオにはよくある。しかし、現実にある苦境とは、身体全体にまとわりついて離れない一種の真綿のようなもので、おおよそ「絶望」という形容詞が似合う絶壁のような苦境は滅多にお目にかかれない。そこで、本作が主人公の絶望に対する映画的演出を抑え、一種の音楽で重苦しい苦境を演出し、より身近な現実的世界を描写しているという事で、非常に優れた視点をもつ映画である。
その上で、本作が監督の初作品であるとのこと、才能の芳醇さを感じる。