Leos Carax監督。
ここまで、画面のひとつひとつの構成が綺麗な映画は稀有である。昼と夜を明確に意識して使い分け、特に夜のパリの質感は監督の得意とするところで、本作で芸術の域にまで達した。ネオン灯のオレンジ、自動車のキセノンライトによって表現される独特の光彩は、白のリムジンを時として別の異質な装置として背景から分離する。白い車が黄色に見える。そして、人間の裸体は緑色の背景によって最も美しい存在として映る。背景が白ではいけない、身体から醜いにおいが漂ってくる。本作には色の魔術が発生している。映画として表現されるのであれば、色の魔術を使わないでして最高の映画たる筈がない。素人目でもはっきりと理解できるほどの、本作の画面の異様な綺麗さに、ため息が出る。
また、これまでの映画史におけるモチーフを、余すところなく網羅しているという点で、本作はやはり贅沢である。本作と直接連関があるかどうかは別であるが、『21世紀未来の旅』の冒頭に出てくる猿人、『アイズワイドシャット』にでてくる仮面、キューブリックを引き合いに出したが、猿や仮面というモチーフは、本作のその中で本筋に影響しない範囲で印象的に使用されている。それも、そのモチーフで何シークエンスも撮れるインパクトがある映画題材を、たったワンショットで撮り捨てる。