a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

Mulholland Drive(2001) - 女優は精神的に大変であった。

David Lynch監督。

 ハリウッドに来た新米の女優は、いかに精神的に過酷な経験を経たのか。本筋がわからなかった観客も、わからなければわからないで構わないわけで、映像の美術性を、ただ堪能さえすれば良い。David Lynchは現代のアーティスト、映画を媒体としたシュールレアリストである。例えば、本作に登場する青いキューブの、物語を全否定しかねない破壊性と、映画そのものが現在進行で上映されている矛盾を楽しんだら良い。とはいえ、無理にインターネットで種明かしを探す必要もなく、インターネットで作品の解説をひけらかす人間の言うことを受け入れることはない。アマチュア、映画評論家、私も含めて多様な解釈を無責任に放言するのだから、余計に作品に対する本来の感動から離れてしまうだろう。ただ、映像の美しさを観れば良い。

 時系列を組み替えて表現し直すストーリーは、それぞれの断片化したシークエンスの持つ手がかりが、巧妙で、抽象的で、意味的であるほど元の姿に戻すのが難しい。ルービック・キューブはそれぞれの面が完全にカラフルになっている時、バラバラになっており、単一色に再現するのが、難しい。『パルプ・フィクション』もこの手のものだが、キューブを一回転させたのみだから、一方で本作の難解さが際立って見えるだろう。難しい事がすばらしいのではなく、難しい事を作ろうという製作者の動機は、すばらしい。監督は、本作がまさか受賞するとは思っていなかった。裏を返せば、難しいことの中に、えらく日常的な感情が差し込んであり、そこに一般大衆が本能的に魅かれる何物かがあった、ということである。畏まった言い方をすれば、難しいことを目指して、そしてカオスには決して陥らずに作り切った監督は、何かすばらしい天啓を受けたに違いない。その天才的な解法に、人は芸術を観た筈である。

(彼女たちが互いに抱いている感情が虚構であり、むしろ正反対であったと判明させたキューブ。鍵は実在したが、当然キューブは抽象的な存在である。)

 色の使い方が秀逸である。風景にしても、衣装にしてもLynchらしさが出る。Hitchcockの『Vertigo』に習ったかもしれない。というのも、灰色のスーツと金髪で不安定な実在感が出ると喝破したHitchcockにある程度は習ったように、本作の衣装や状況から感じた。本作のストーリーは実在の不安にあることを考えるとこの仮説は現実味を帯びる。