佐々木康監督
隙間風の吹く映画のようでもあり、邦画の歴史資料として貴重な作品でもある。細かいところではパンの粗さが目立ち、全体的な脚本も練られていないようでもある。平民がスター歌手になるという急に倒立したような話である。しかし「リンゴの唄」がよい。「リンゴ可愛いや可愛いやリンゴ~♪」が癖になる。この歌は日本を代表する歌で、終戦直後、観客に明るくなってもらう復興の象徴になった。曲が流行らなければ、忘れさられた映画になったはずだ。突然の大団円でぞろぞろとこの曲をヂュエットで歌われて、しかし本作は確実に日本国民を元気にした。ただし映画的には私は困るのである。同時代には『カサブランカ』や『天井桟敷の人々』もあり、どうしてもそれらには邦画は全てが劣っているのは歴然であった。小津安二郎はアジアで海外映画を観て日本の敗北を悟ったという。