a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

戦場のメリークリスマス(1983) - カンヌの恥

大島渚監督

 700作品ほど映画を観てきて、本作ほど詩的にまとめられた反戦作品は他には見当たらないだろうと思った。あまり映画を観ない方々からすればメッセージ性が薄いと感想するかもしれないが(私も、もし映画観はじめの頃ならそう思っただろうからである)、そうではない。個性や文化の尊重というテーマがちゃんとあり、それを土台として当然導き出させる結論としての反戦思想やメッセージが伝わるようになっている。他国の商業的祭典に難癖をつけるわけではないが、カンヌ映画祭パルム・ドールは慣習的には「反戦作品」に対して送られることが多かった。にもかかわらずこの年のパルム・ドールは、今村昌平の悪趣味が光る『楢山節考』に決まり、現代日本文化を代表しているはずもない作品、つまり世界的にも毒にも薬にもならないただの邦画のひとつに賞が流れたことに対しては、カンヌの審査会には「Shame on you」と言うしかない。『戦場のメリークリスマス』の方がよほど映画的にも世界平和的にもためになる作品である。あのときカンヌは目が曇っていたのだろうと推察するしかない。もっとも、今のカンヌ映画祭やカイユ・ドゥ・シネマ誌も批評能力がすっかり落ちて形骸化が進んでいる。

 そういう他国事情はともかく、きっと日本人でも本作をストーリーが冗長でつまらないと思う方もいるだろうし、美術性という観点で何回でも観て頂きたい。邦画としての非日常的なカット割のすばらしさや、演者の個性を徹底的に引き出したカメラ、英国人と日本人が馴れ合わず混在する脚本のなめらかさを感じて頂きたい。どれも一級であることがわかるはずである。