a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

Pan's Labyrinth (2006) - 現実と逃避の狭間で。

Guillermo del Toro監督

 

 一般的なダーク・ファンタジーとして考察を終いにするにはあまりに雑である。ファンタジー映画は基本的には裕福というイメージがあり、それは精神的にも経済的にも恵まれた少年・少女が不思議の扉を幸運にも見つけるといったものである。もしくは、恵まれていない少年・少女が、恵まれていない故だか否かはわからないが、不思議の世界に行って現世に戻ってくると、結果的に現世においても裕福になっているというものである。だからそのイメージに立つ限り、アンハッピーエンドのファンタジーは相対的に「ダーク」の意味合いで括られてしまうのであるが、本来の定義からすれば誤りである。

 今回、精神的にも家庭的にも恵まれていない少女が、不思議の世界への憧憬を持ち、その憧れは実際にその世界への片道切符へと発展していき、結果として彼女は現世からは決別することとなった。一般的なファンタジーにおける、現世に戻ってきて自らの裕福さを確かめるという内容ではない。ファンタジーの世界は少年・少女の精神的発育を促す試練にはなっておらず、むしろ現世の醜さをあぶり出し、現世から逃避するまでの準備期間を与えるためのそれであった。そして、それを見るいわば「大人サイド」の内省を促す鏡のようなものであった。その鏡はおそらく大人たちには鏡面として映るが、子供だけは通過することができる、あの独特なファンタジー的繊細な動機によって製作されており、その意味では「ダーク」というよりも、もっと純白な映画的動機を垣間見ることができる。