Ang Lee監督
実写化が難しかったであろう原作を、ここまで映画化できるという技術に驚嘆した。おそらく、ファンタジー映画の新しい型を今回の作品は開拓した。従来の非現実世界を前提とした非現実感覚の描写ではなく、あくまでも現実世界を前提とした非現実感覚の描写。そこでは虎は当然のことながら人間のように喋ることもなければ、まして人間性を付与されることもない。虎はパイと仲良くなることもなく、森へ去っていく。
一方で、原作小説を読んではいないものの、小舟に多感な少年と虎を同居させて200日以上漂流させたのだから、虎には物体的意味以上のものが描かれていたのではないかと想像する。というか、小説とするからには少年が精神的に成長するために、虎の存在自体に役割があって然るべきである。つまり、少年が世界を見る方法、複数する宗教のどれを選択するかということ、もしくは移民という弱い立場に置かれた自分にどう向き合うか、について虎と漂流することで何らかの示唆があったのではないか。それが、映画化された本作には全くない。少なくとも映画冒頭で問題提起はされてはいたが、それは有耶無耶になった。若干くたびれたようにも見えるおじさんが、少年時代の勇敢な冒険を語り、インタビュアーと観客がそれに熱中して終わる。
小説としての旨味はないが、娯楽映画としてみれば非常に優れた作品である。