Cristian Mungiu as director
エンドクレジットのデュエットが要らないように思えてならない。モンタージュを終にゼロへと近づけることにより、対象の客観性を極めて厳密に獲得した作品。カメラと対象との透明な距離感により、さも現実の中絶を観ているかのような錯覚を得て、映画とはここまで進化したものだ。モンタージュの無い画像がもたらすものとは、主人公のキャラクターとしての希薄化である。主人公の役割が、だんだんと半透明になっていく。彼女は、違法行為である中絶を、クラスメートのために必死に実行とするヒロインではなかったのか。ラストのショットを観る限り、クラスメートの自分勝手とフォアグラの皿の前で、ヒロイズムは敗北しているように観えるのだが。私としては、日常として尤もらしく起こりそうな現象を、そのまま映画として投影して映画のストーリー空間が構築できているという、今の映画史としては最もリアリズムを実現した作品として、本作が評価されているのだろうと思う。