a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

Vertigo (1958) - 色彩による感情描写と、原作の忠実な解釈に対して。

Alfred Hitchcock as director

人間の本質を描く、というのが本作の目的である。Hitchcockは色彩で人間の感情を表現し、音楽で人間の深層心理を描写できると考えていたようだ。ここには、色彩と音楽の明瞭な住み分けが存在し、互いの境界線を乗り越えることがないように見える。実際に、本作を観ると、その住み分けが厳格に方向付けられていることがわかる。彼の色彩感覚は、特に風景ではなく人物描写のために利用されている。きれいな風景ではなく「きれいな人間」を描いているといったら言い過ぎだろうか。

ところで、原作はフランスの作家が書いた「死者の中から」という小説である。プロットは原作と映画でかなり変更・省略があるが、小説の意図した描写に関してはかなり忠実に映像再現しているのですばらしい。たとえば、本来マドレーヌはクールブヴォアからセーヌ河へ身投げするが、その身投げの様子が小説の意図とそっくりに映像再現されていることに私はおどろいた。映画では花びらを水面にまいているという違い(原作では破り捨てた手紙の紙切れである)はあれど、ジャンプすることもせず、無抵抗に水面に吸い込まれるように落ちるあの独特の身投げの仕方は、小説に描いてある。ジャンプしておおげさに身投げしないのがミソである。監督は細部まで原作を吟味したのだろうと思う。ただし、ラストはHithcockのオリジナルだ。まさか修道女があんなに空気を読まずに入ってくるとはと観客は落胆するが、この急展開も本作の良さのひとつである。