a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

It's a Wonderful Life(1946) - 素晴らしい妻を観る。

Frank Capra 監督。

 James Stewartは、硬派だけれども町人から信頼が高い、仕事の出来る人だ。美人の奥さんがいて子供も4人できた。それでもふとしたミスで破産しかけてしまう。もう自分はおしまいだ、自分の保険金で家族を助けて自殺しようとする。そこに天使が登場する。天使はおじさんなのでイメージとかけ離れているが、その天使が彼の存在しなかった虚構の世界を体験させる。

 一方、Donna Reedはよく出来た奥さんだ。夫が破産しそうになった時、咄嗟の機転で町人に資金援助を頼んでいる。だからJames Stewartが天使に気づかされて、自殺は良くないんだ、俺は十分に幸せなんだ、と納得して家に戻って来た時には、既に破産の問題が解決している。そしてハッピーメリークリスマスを迎える。

 数ある家庭の中でもなんと良くできた妻だろう。「素晴らしき哉、わが妻」である。子供を4人も作ってくれて、夫の危機も救ってくれる。不機嫌に当り散らしても決して怒らない。クリスマス料理もツリーの飾りつけもする。こういうのを完璧と言う。本作のDonna Reedよりも完璧な妻はいない。でも、主演はJames Stewartだから、彼も理想の男性像であるに違いがない。仕事が軌道に乗っている上で、Donna Reedのような良妻を持った男性像こそ、本来が賛美したかったテーマなのだろう。いわゆる完璧に成功した男像である。

 アメリカでは、クリスマスに本作を毎年放映するそうである。この二人は、いつまでもアメリカの理想の家庭像なのだ。「完璧な男像」「完璧な妻像」を両軸に示す理想の家族像である。

 本作の長所であり弱点でもあるのは、天使である。

 観念的な理想を具体化したいから、天使などという回りくどいシークエンスを出して来て、いかに現実が理想的すばらしさを持っているか、虚無の世界を経由して明示するのである。この意味で、本作は夢のようだけれども、多少強引である。むりやりにでも現状を理想の方向へと賛美するからである。死ぬより、生きている方が良いのは、考えてみたら当たり前ではないか。一方、考えが至った時、我々はタイトルの本当の意味を知るのである。『It's a Wonderful Life』とは、James StewartでもDonna Reedでもなく、我々の人生のすばらしいさを言ってくれているに違いが無いのだ。映画を観ている方が、死んでいるより遥かにすばらしい。