a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

A man from London (2007) - ゆっくりと変化する精密時計のような画面を観る。

Tarr Bela監督。

はじめに、波打ち際の画面が現れる。それが、歩くよりもゆっくりとした速度で、次第に上へティルトしていくにつれて、その被写体が船であることが判明する。しかし、そこで画面はカットされることはなく、右へと、これまた歩くような速度でパンされていく。そこには男が複数人いるが、一人が画面手前にむけて普通の速度で歩いてくる。すると、その移動に正確に応呼して、画面が後ろへ引かれていく。すると、画面端に黒の窓枠が出現して、次第に窓を形作る。そこは部屋の中であり、実はそれまでの一連画面は部屋の中からズームで撮影されていたことに気づく。

非常に正確なカメラワークと、計算されつくした舞台装置と俳優の動きが、本作の精密なシームレス画面を形成する。カットは、ストーリーの舞台が座標的に飛ぶ際にしか、すなわち止むを得ない事情のときにしか極力使用しない。この姿勢が、きわめて思考しつくされたすばらしい映像を生む。

本作を一度注意深く観たら、他のたいていの、ありきたりなストーリーを持つ、ありきたりなカメラワークの映画が、脂肪で太りきった怠惰の様相を帯びるようになってくる。そのため、よほど映画が好きになっていて、時間の節約として、これからは良い映画作品のみを観て生きたいと思う人には、相当おすすめできる作品である。