Wong Kar-wai監督
男と女の距離が非常に近いことに驚く。それぞれ他人であっても、まさに恋する惑星の下では触れるだけで恋人になれる。映画的説得性をもって、この超常的惑星を描写することが大切なのだが、本作はハンドカメラによる近接撮影と、静止画をまぜることによって効果的にこれを実現した。
ハンドカメラで撮り続けるのは簡単なことではない。この微妙に揺れ続ける画面から伝わる不思議な感覚は、小説では出すことができなければ、揺れを音楽で設計するには複雑すぎる。映画であることを実感できるのがハンドカメラである。それが実現したときの実はかなり大きいが、ではどのジャンルにおいてハンディカムが生きるのかという疑問もわく。
本作に驚くのは生身の人間が近づいてくるような感覚、恋愛の生の匂いを嗅ぐことすらできそうな、すなわち演出効果の妙なのだろうか。本作を観てからハンドカメラで撮らない他の恋愛映画に入ると、どことなく劇に見える。カメラを固定し、切り替えしショットばかり多用したらなおさら劇のようである。劇は悪くないが、映画であるのに映画的ではないのでは残念である。中途半端な映画は恋愛感情にせまってこない。
だから、恋愛映画のジャンルにこそハンディカムが生きるということか。そういえば、恋愛をしたとき我々の視界は浮き足立ち、揺れていないか。
恋愛映画の最も進化した形とは、本作のようなものを指す。