Ingmar Bergman 監督
監督が自ら引退宣言をして残した作品の中で、おそらく最もすばらしい。すべてのシーンのスクリーンプレイがなめらかであり、不自然な箇所が見当たらない。その意味で、虚構であるのにあたかも現実の一家族におきた出来事を描写しているような瑞々しい感覚を持つ映画である。家族の崩壊と再生というストーリーを持ちながら神秘的な事象にその解決を求めるという、現実的な家庭問題に虚構的救済を用意する姿勢が独創的である。
多数のキャラクターに綿密な人物設定があった点、祖国の独特な色彩感覚をクリスマスという記念日を切り抜いて再現した点、5時間の作品の中でたえずユーモアの必要性を認識していた点、どれを取ってもすばらしく、非が無い。しかも、教科書的という意味合いで完璧なのではない。良さを真似するには極めて高度な繊細さである。それが監督の独創的なストーリーに巻きついているので、芸術的意味で完璧である。
本作には、人間の恐れ・喜び・幸せ・怒り・虚無感などすべての感情が入っている。手法もシリアスな展開から喜劇的展開まで幅広い。ここにないのは、最近になって映画で流行っている裸での過激なセックスシーンくらいで、時代を考えればやはり全てを網羅していると言ってよい。