Rob Marshall監督。
異国情緒があるというだけで海外の受けはよいフィルムであろうが、私としてはいまいちピンと来なかった。戦前から戦後にかけて活躍した芸者についてのストーリーなのであるが、あまりにも描写が小綺麗すぎていけない。戦時中から戦後の芸者は、溝口健二が描写していたようなもっと生々しく、日々の生活に対して諦めや妥協を多く持っているものだ。逆に言えば、その小市民的な描写が、私の心を打ったものである。
それが、本作におけるSAYURIにはもはや小市民的な感覚はまったくなく、どちらかと言えば現代の芸能人のようにみえる。戦中戦後の時代設定にもかかわらず、である。日本の芸者のリアルを追求しているのではなく、ユニバーサルな純粋さのヒロイズムを描くのが主眼なような気がしてならず、私は物足りないと思った次第。
ところで、主演のチャン・ツィイーは『初恋のきた道』の時から観ているが、愛に一途な人間を演じたら有無を言わさないところがある。どんなに現実ばなれしていて、気恥ずかしいほどに一途な女を演じていても、彼女であれば許してしまうところがある。その意味で彼女を超える役者は、現在においてはいない筈である。
本作が公開された際に、日本が舞台の映画で主演が日本人でないことに違和感を唱える者がいた。ただし、当時ハリウッドデビューをしていた小雪や栗山千明では、彼女ほどの「一途さを納得させる境地」には到達しなかったであろうし、よい配役であったと考えた。もっとも、戦中戦後の日本映画は、かつての満映がそうであったように、日本人の主役を韓国や中国の人間が演じるのは普通であった。日本の顔立ちの美形意識は韓国から来ているし、日本人の主人公を中国や韓国などの人間が演じることに、私はなんら抵抗はないのである。