a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

All the King's Men (2006) - ストーリーは上手いが、感情移入ができない悲劇を観る。

Steven Zaillian監督。

監督は、むしろ脚本家としての仕事の方が目立っている人である。

Sean Pennの演じる、酔っ払っているのかいないのかが若干不明な演説が特徴である。Jude Rawは『グランドブタペストホテル』に出演していたそうであるが、二回視聴したにも関わらずあまり印象に無い。

典型的な悲劇を描いている作品である。しかし、重大な実績のある原作で、これだけキャストも実力があったのに、いまひとつ抜けきれないところがある。アカデミー賞にならなかったのは、アカデミー賞好みの作風ではなかったからという理由が出せるだろうが、問題はそこにはない。むしろ、主人公に対する観客の道徳感情的な同情が、本作には決定的に欠けている。つまり、悲劇の誕生とは、ストーリー展開の悲劇だけでは両輪のうちの片車輪のみであり、もう片方は観客のシンパシーによって回るのではないだろうか。ここに、ストーリー展開の上手さのみでは映画の感動を語りつくすことができない理由がある。

ストーリー展開は上手い。入れ子構造を積極的に取り入れ、肝心の暗殺シークエンスはあえてモノトーンとするなど、2時間にわたって独創的でかつ象徴的なセンスがあった。役者も上手い。しかし、このSean Pennには、私は同情感情が無かった。アカデミー賞好みであれば、彼に家族とおさない娘をあてがい、家庭ではやさしい父であるというシークエンスを挟んでおくなど、やりようはあっただろう。むしろ、本作の主眼はJude Rawの視点からみえる世界にあるはずで、そのJude Rawに共感できない時点で、道徳感情をつくりにくい。本作は、あまりにも難しいことに挑戦し、映画の説話世界の中に飲み込まれたのである。