シネマスコープを採用するとは、この監督にしては珍しいことである。シネマス
コープの問題点は、面長である西洋人の顔を収めるにはむずかしい点である。必
然と、画面全体に占める表情の大きさが減るので、感情描写がむずかしくなる。
映画とは、通常の世界を通常通りに撮ると、人間達がひどく下品でつまらないも
のに見える性質がある。シネマスコープは、人間の感情をうまくクローズアップ
できなければ、その下品さに落ちてしまう危険性をはらんでいる。本作と時代が
異なるが、『ムーランルージュ!』を観ると良い。そこでは、面長のNicole
Kidmanの顔を特に収めきれないので、豪華喧騒な背景によって、映画が下品に堕
さないよう努力がされている。
本作では、横にスクロールする撮影が目立った。男と女は似ているようで、中身
が全然似ていないということが問題なのである。