Ingmar Bergman as director
だれが見てもお嬢様育ちの娘が居る。とても世間知らずなのだ。ある日村から別の場所へと遠出をすると、明らかに人相の悪そうなごろつきに出会うのだが、世間知らずだからそいつらが悪だとはわからない。もちろん観客は彼らが悪役であることは直感的にわかる。予想通りお嬢様はレイプされてしまい、しかも頭を割られて殺されてしまう。ここまで酷い悲劇は他に無いのである。
本作の魅力は、人間の感情を的確に描写した上で人間のモラルの限界を看破している点にあるだろうし、レイプされた後の娘が発した動物のような鳴き声がいつまでも私の耳の中に残っている。他のあらゆる年代の映画を観ても、ここまで後気味の悪い声は無かったのであり、女性という存在を唯一正面切って捉えることに成功した作品である。他の映画なんて、本作を経由してから観れば女性蔑視以外の何物でもないと気づくほどの、それは真理を的確に掴んだフィルムなのだ。
最後もすごい。殺された死体をどけると、そこから水が湧き出てきて泉ができる。なんとも気味の悪い泉である。しかし家族はそれを神聖な泉として崇めるのである。果たして神聖なるものとは何か。生き物の一種でしかない人間が神聖な存在になるのはいかなる理由をもってしてか。その答えが本作にあるような気がして、宗教をあまり重視しなくなった21世紀から観れば到底本作に及ぶ作品を作れる筈が無く、故に永久に神聖な名作であるだろう。
CGも無い時代に、CGを遥かに凌駕する作品が作られたのだ。この時期の名作として王道に取り上げられる『8 1/2』より、私はこちらの方がよっぽど好き。
(ただならぬ雰囲気に気づいていないのは世間知らずの娘だけである。なんて可哀相なのだ。)