a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

Winter Light (1963) - 表情の仮面を観る。

Ingar Bergman as director

女の表情は仮面である、という鋭い考察を演者にしゃべらせ一途な女の性を描く。本作の監督の演出は、その定義を曖昧に置いておいたとしても、もっとも映画らしい。小説でもやらなければ、音楽にも不可能な領域で、かつ映画でしか描写できない日常の細かなしぐさを映すようにしている。交通事故を知らせを受け取る、その場へ急行する、運転手は死亡していた、主人公はその様子を複雑な複雑な表情で見つめていた、という一連のシークエンスがある。ここで本作は、その見つめた後に、主人公が再び車に乗って立ち去るまでの振る舞いをたっぷり時間をかけてノーカットで映している。そのシーンは当たり前のようで、100作品なり500作品なり毎日連続して観ていると、実は非常に稀な編集姿勢であると感づく。映画は主人公の心境の変化=ストーリーを描写することに主眼を当て、ほとんどの場合はその文法に忠実となり、主人公がその事故死体を複雑な表情で眺めたところでシークエンスは終了する。ほとんどの場合、主人公が車で帰る様子はいわばストーリーにとっては興味の外で、実際にほとんどの映画でそのシーンは省かれるか適当に数秒撮って終いである。ここで本作は、その要らないはずのシーンを車の配置まで十分に気を配って撮影し、あたかも要らないはずのシーンへの執着にこそ映画の重要な意味があるとでも自信を持って主張するかのように、シークエンスの尾を引き伸ばすのである。