a-moviegoer’s diary

2014年から1日1本の映画を観ていて感想を書き溜めています。そして今年通算1000本を観ました。これからも映画の感想を溜めていきます。東京都内に住んでいます。

The Dangerous Thread of Things (2004) - 大自然、もしくは性。

Michelangelo Antonioni 監督。

 マセラティのオープンカーに乗って、金がある男だなあと思って観るわけだ。

 イタリア人の美の観念というのは、やはり他と隔絶している。日本人は、フランスの美は多少ピンと来るし、その意味で西欧の美的感覚には直感的に応対し、だからこそフランス賛美になりがちなのであるが、イタリアの美はピンと来ない。

 キャメラは好きな撮り方であるし、役者を最大限に活かそうとする姿勢も良い。あとはイタリアの美的概念の真髄が分かれば最高だと思うのだが、それは日本人には基本的に無理かもしれない。ただし、広大な自然の中で愛を享受しようとする登場人物たちを観れば、そこに「太陽と月」を感じるはずである。性行為がいやらしくない、雄大な大自然を基調としているものだから「太陽と月」という表現がしっくりくるのである。日本の性愛をテーマにした作品は、それはそれは嫌らしい作りであるし、日活を筆頭とするロマンポルノがそれを助長したのだろうけれども、基本的に性行為を恥ずかしい隠すべきものだと考えている。すなわち、一部では性を卑下ている。その違いが、イタリアの感覚を理解できなくなる一つの文化的断絶だと思う。

 この収録されているオムニバスのタイトルが『Eros』であるのに、和名では『愛の神、エロス』と誇張した上に、結局意味の分からない表現にしてしまうあたり、日本人は性に対して混乱でしか応答できないのである。

 ところでこの監督は、私が一番好きなIngmar Bergman監督と同年同日に死んでいる。本作を撮って、これが遺作になった。大きな郷愁を感じる。

(このシーンは非常に優れている。喜びに期待する女の純粋無垢な表情の中に、役者を活かし切った監督の技量を重ね合わせ、着目すべきである。)

(大自然の中で踊っているのはバレエであろうか。独特の性的な感性を堪能してほしい。性に奔放だとされるフランスも、自我意識に対しては奔放だけれども、大自然と性と融合する感性は持ち合わせていない。)