Giuseppe Tornatore監督。
目で魅せる映画である。船の揺れと共に床を走るピアノは、美が船の中を縦横無尽に疾走しているイメージを引き起こす。どのシークエンスも美しいので、どうして美しいのだろうと見入ってしまう。その理由はきっと美が運動している様を観ているからだろう。我々は概して美という抽象を花瓶に生けた花のような静物に求めがちであるが、運動している美という存在を知ったとき、自らの固定観念が揺るがされるからであろう。この走るピアノを我々はずっと目で追っていたいわけで、そこで映画に釘付けになる。美を求める我々の知性が無意識のうちにそれに応答しているからだ。そして映画という特異な表現手法の醍醐味を知る。実写化することでしか直感的に気づけない美も在るということに、本作を通して気づかされるのである。
すばらしい映画である。