David Lynch as director
『マルホランド・ドライブ』ではハリウッドで活躍しようと頑張る新米女優が描かれた。本作では、一度は主演者が死んでお蔵入りとなったいわば魔性のスクリプトが登場する。
これに主演して返咲こうとするおそらくベテランの女優が主人公であるが、スクリプトが魔性である故で、次第に公私混同しはじめる。それはエンドクレジットの直前のシークエンスまで続く。
映画中盤から終盤までのストーリー的解釈は、おそらく何通りも仕方がある。むしろそうなるべく製作されている。よってそれを紐解くことが重要とは思えない。
それにも増して本作が面白いのは、幾通りもの解釈が許せるストーリーの構成を持ちながら、終盤には明瞭なハッピーエンドを設定した点ではないか。ハリウッドの闇を捉えながら、「Inland Empire」の女帝は笑うのである。エンドクレジットの軽快な女達の踊りは、主人公の女がクランクアップ後に自宅で開いたパーティーの一部であるに違いがない。女優は困難を乗り越え、束の間の平穏を取り戻せたのだと胸をなでおろせる。
しかし、この大団円は『8 1/2』に影響を受けた作家のものと似ている。エミール・クストリッツァはフェリーニに感化された監督であると言ってよいが、彼の『アンダーグラウンド』ともラストが似る。だから、監督のベストの作にはならないとも思う。