Charlie Chaplin監督
ジプシーの作品を観るとフェリーニの『道』が観たくなってしまう。西洋映画にはジプシー映画が沢山あり、本作もジプシーの話。ジプシーの女奴隷がいて、売れない音楽家と恋愛する話である。
チャップリンはミューチュアル社に移って、圧倒的に芸術的になった。観るべきはミューチュアル時代のチャップリンだろう。キーストン時代もエッサネイ時代も、音楽家や画家なんて登場しなかった。それがエドナ・パーヴィアンスを奪い合う。音楽家のチャップリンは戦ってエドナを救い出したが、画家がエドナの肖像画を描いて彼女を惚れさせる。チャップリンは同じくエドナの絵を描いて気を引こうとするが、素人のように下手なのでうまく喜ばせられない。音楽で勝負しないところが、放浪者としての弱さ。流しのヴァイオリニストだから、いざ肝心の勝負となると自信が無いのだろう。
ジプシーのザンパノのような冷酷男、エリックキャンベル。彼はチャップリンと相性が良かったが交通事故で若くして死んでしまった人。彼も作中でよい味を出している。
結局エドナは画家の側に引き寄せられる。金を払うからあきらめてくれと言わんばかりに謝礼を渡そうとすると、それを払いのけて「さようなら」と言う。ただひとこと「さようなら」と言うだけの潔さ。これがチャーリーの良いところだ。後のハードボイルド映画と通じるところがある。それにエドナは最終的に答える。すばらしい映画である。感動的に作る映画の見本である。こんな基本的で純粋な感情を、今のシネアストたちは複雑にかしこまって唸りながら脚本書いているからなかなか表現しない。