Edwin Stanton Porter監督。
馬車が右上方からのびる道の奥から、手前へと走って来るショットがある。ここで三台目の馬車が手前まで到来したとき、左方向へと緩やかなパン撮影をする。まず、パン撮影をし易いように、道裾にカメラを設置している。もっとも、これほどの道幅があれば道裾ではなく、道中央であっても遠近感覚は確保できる。ただし、『工場の出口』や『大列車強盗』では固定カメラであり、『月世界旅行』でもパン撮影はない。
また、消防士が空想をしているが、この技法は『月世界旅行』でもみられるようなdissolveである。そこで、本作のすばらしい点とはパン撮影の発見にある。ティルトはまだ後の映画になるまで出現しない。
また、火事の家から女を救い出したと思いきや、ベットの中には子供もひとり居たという、観客をあっといわせる遊び心がある。これは遊戯ではない。遊び心である。ただし、その遊び心が結実したのは、女を救うというストーリーを、部屋の中からの撮影ショットおよび屋外からの撮影ショットでそれぞれわけたシークエンスである。これはモンタージュの先駆けといって良いのではないか。『月月面旅行』は、確かに時間と空間の推移があるストーリー展開を描写したが、本作はその公表一年後にこれらの技法を発明したのである。