木下恵介監督。
率直な感想として「うまいなぁ」とつぶやいてしまった作品。当時は古典音楽の教養が上流社会のステータスであったのかもしれないが、映画で古典音楽を違和感なく取り入れ、それがストーリーに欠かせない要素となった好例である。音楽が表現することのできる人間の感情、物事の形而上的印象を理解して映画に取り入れることが出来た。Stanley Kubrickを除いて、ここまで古典音楽の感性を持っていた監督は居ない。
detail shotが時々入るのであるが、どれもすばらしい。飲み干したビールのコップは淵についた泡が底へとゆっくり移動しており、主人公が愛する人を心理的に失った虚無感を描いているが、同時に人間の湿っぽい感情がまだそこに生きていることも暗示しているようである。一つのシーンを取って思い返してみれば、やはり監督の感性が鋭い。